消費税増税は良識か
増税論は政治家にとって支持率を落としかねない問題であり、ある種の政治責任を伴う勇気を必要とする議論であります。しかし、今日の消費税増税論議はいかがなものでしょうか。年金・福祉のため、震災復興のため、はてはB型肝炎補償のためと、口を開けば政治家から増税論が飛び出します。サンケイ新聞の編集委員田村秀雄氏はまるでパブロフの犬のようだといいますが、条件反射的に増税が思い浮かぶ、いや、増税しか思い浮かばない状況なのでしょう。3.11直前までの国民にとって最大の関心事項だった景気回復は、一体どこに行ってしまったのでしょうか。この20年間で税収の1/3を不況が奪ってしまったというのに、増税すれば全てが解決するかのような執着ぶりです。 谷垣自民党だけでなく民主党まで増税に突進するのは、60%以上が増税やむなしとの世論に他なりません。この世論なるものが正常なのかどうか、マスコミのプロパガンダではないのか、市民は内容を知っているのか、「失われた20年」が今後「失われた未来」になるのではないか・・との危機意識を持って、今回は消費税に絞って考えてみます。 消費税とは・・・ 消費税は平成元年4月1日に施行されました。もう23年にもなりますので、お馴染の税制ではありますが、私たちは十分に理解しているでしょうか。 消費税をもう一度見直してみましょう。私たちが常識と理解していたことが、実はそう思い込まされてるだけなのかもしれません。 「消費税」はその名の通り、最終的に消費者が税を負担することになっております。 本来であれば、一年間に消費した額を消費者自身が申告して、消費額に応じて納税するべきです。しかしこれは大層面倒な上、真面目に申告するほど税額が上がってしまいますので、実効性はありません。そこで、流通の各段階に等しく課税することにより手間を分散させております。業者にとっては主に価格上昇分に対して課税されるので、付加価値税とも考えられます。 昭和末期、まだ日本が拡大再生産を維持していた時、将来の少子高齢化や年金・福祉問題がうっすらと見えてきました。この時、税の直間比率や極端な累進税率を是正するために低率の消費税導入は意味が有ったかもしれません。またこの時までは戦後一貫してインフレ基調でしたから、課税は無理なくできましたし、インフレ防止としても有意義でした。 では、橋本内閣が5%に上げて以来、税を転嫁することは出来ているでしょうか。 結論から言えば、デフレの状況下では消費税の全てを消費者に転嫁することは出来ないのです。消費税のズルイ所は、その名前です。消費者は自分が消費税を負担していると思っております。しかし、建前はその通りでも、20年来の不況・デフレで販売価格・販売数量・利幅は大きく削られ、税を転嫁する余地などないのではありませんか。 消費税は流通の各段階で課税されますが、価格競争のため多くの事業者が自ら負担しているのが実情ではないでしょうか。 消費税率は本当に低すぎるか さて、政府は消費税率を10%にするつもりです。マスコミの言うとおり、日本の消費税率は5%で、他国と比べると非常に低いものです。例えば他国の付加価値税率を列挙すると、イギリスは20%、ドイツ19%、フランス19.6%、アメリカは国税としての付加価値税は無いのですが州毎に決めています。財務省HPによると、2008年度の総税収に占める消費税(付加価値税)の割合は下記の通りです。 日本29.3%(税率5%)、イギリス36.2%(税率20%)、ドイツ46.4%(税率19%)、フランス39.3%(税率19.6%)、アメリカ23.5%(税率不定)。 これは日本財務省HPに載っておりますのでご確認ください。 税率5%は確かに低い数字ですが、29.3%のシェアーは少ないといえるでしょうか。まるで原発の発電シェアーとそっくりです。日本は一律に消費税をかけてしまいますので、低率でも額が大きくなるのでしょう。これが逆進性の原因です。 これを平成23年度の税収(予算)に置き換えてみますと、総税収約41兆円、消費税収約10兆円ですから、消費税の割合は25%となります。 もし税率が10%となった場合、政府が考えているように不況が起こらず、税収が理想的に増えたと仮定すると、総税収は51兆円・消費税収20兆円になりますから、消費税収の割合は39.2%になります。倍の税率19.6%のフランス並みです。もし所得税・法人税が落ち込み、総税収が伸びなければ、消費税収が50%にもなってしまいます。 ちなみにイギリスと同じ税率20%になると、消費税の割合は56.3%にもなってしまいます。要するに、税率だけを比較して日本が異常に低税率だと言うのは間違いなのです。 他国を参考にするのは良しとしても、真似する必要はありません。 還付される消費税 何らかの理由で消費税は還付されますが、輸出業者に対する還付金について論じます。 建前上消費税は最終消費者が負担することになっておりますので、最終消費者が税を負担しない場合、その販売者は支払済の消費税と自らの付加価値税分を取りっぱぐれる事になります。外国の消費者は日本の消費税を払う義務がありませんので、輸出業者は相手から税金を預かることはありません。すなわち輸出時に消費税は免税となります。 当然輸出業者は付加価値分の納税を免れますが、それ以前に払い済みの消費税は過払金となるので還付されます。前にも書いたように、理想通りに消費者が税を負担し、流通経路の中で業者が所定の利潤を得て、公正に税をつけまわしているのなら、輸出業者が過払金として税を還付されることは理解できます。しかし、実際は仕入先にコスト削減を強要し、結果的に税額を負担させているとしたらどうでしょうか。払いもしなかった消費税を還付されることになりませんか。また、輸出相手が日本の消費税に関係なく、単に価格に合意しただけであれば、税を転嫁できなかったともいえないでしょう。非課税になるだけでも大変なメリットだと言うのに、それ以前に支払ったことに建前上なっている税金が還付されるのです。しかも、原材料だけでなく、輸出に関わった経費すべてに対する消費税が適用されます。 ではどれくらい還付されているのでしょう。 関東学院湖東教授による調査では、2003年の輸出企業の還付額は、トヨタ自動車1.700億円、ソニー1.000億円、以下ホンダ・ニッサン・キャノンなど上位10社の還付金合計が6.842億円です。 斎藤貴男氏の2008年の試算では、消費税収16兆9829億円の40%、6兆6700億円が還付されており、トヨタ他上位10社に1兆1450億円振り込まれたと言っております。この金額は国内販売にかかる納付すべき消費税を相殺した真水の還付額ですので、驚くべき金額です。これは体のいい輸出奨励金です。勿論、還付を受けた結果利益がでれば法人税等の対象になりますが・・。 消費税収16兆9829億円から還付金6兆6700億円を差し引くと、真水の税収は10兆3129億円ということになります。 単純に計算すると、税率が10%になると13兆3400億円が、20%では26兆6800億円が還付される計算です。なんと税率10%で23年度の総税収41兆円の32%が、税率20%で65%が還付されることになります。 消費税が増税され、法人税が減税されれば輸出巨大企業のメリットは測り知れません。 経団連が増税に熱心なのは、要するに消費税は儲かるからです。 結局 人は自分に有利なことを正しいと認識する 「消費税は広く・薄く・公平だ」「次世代に負担を残さない」など一見良識的な理屈で消費税やむなしの論調が世論となっております。 昔から「理屈とトリモチは何にでもくっつく」というように、良識とされるこのような世論も、一皮むけば自分に有利だからに他なりません。その弁でいけば、筆者の主張も例外ではないことをお断りしておきます。 経団連が増税を主張するのは、まさに輸出が免税業者の立場を維持し、納税義務どころか莫大な還付を受けられるからです。 それでは60%以上を超えるという「増税仕方なし」の世論はどうでしょうか。 平成20年の我が国の総人口に対する65歳以上の人口は22.3%です。 50歳以上ですと42.9%、40歳以上なら57.2%となります。社会的に要職を得て、発言力もあり、マスコミなどの言論を操作でき、選挙権を存分に発揮する世代が半数に達しています。 高齢者世代は生活インフラをほぼ整えており、貯蓄も持っております。心配なのは老後の年金や福祉です。大きな出費はすでに終えておりますので、収入が少ないとはいえ消費税が多少上がる損失より、年金や福祉で還元される利益の方がはるかに大きいのです。しかも、増税によって不況になろうと、デフレになろうとリタイヤしていれば関係なく、デフレはむしろ預金金利が上がることと同じ効果になりますから有利です。 しかし若年世代はどうでしょう。 増税されればただでさえ深刻な不況はますますひどくなります。雇用が減り、所得も落ち込みます。その上生活インフラを整えるための税負担が増えます。衣・食・住・教育その他全ての生活インフラに多額の消費税がのしかかってきます。しかもその理由は、「君たち若い世代に負担を与えないため・・・」と教えられるのです。 なんという欺瞞でしょうか。 国家の財政が健全であることに異を唱える人はいないでしょう。しかし、財政が健全であることは、理想ではあっても目的ではないはずです。 企業の財務が健全であることは、経営者も従業員も取引先も消費者も望むところでありましょう。しかし、その為に従業員をリストラすることを従業員は望むでしょうか。その為に取引価格を不当に値切ることを取引先は望むでしょうか。その為に販売価格を値上げすることを消費者は望むでしょうか。国家の経営陣にとって財政健全化は目的になってしまっています。ではその目的は彼らにとってどのような利益を生むのでしょうか。政治家にとっては自己満足?官僚にとっては利権確保? どうにも理解できないのですが・・・。 諸々の問題点 消費税は最も公平な税だと言われますが本当でしょうか。問題はないのでしょうか。 いくつかの問題をすでに述べましたが、共産党など庶民派(?)が問題視するのは逆進性です。税をたくさん払うのは消費金額が多い富裕層に決まっておりますが、貧困層では所得の全てが生活必需品の消費になってしまい、税負担は過酷です。経産省推薦のエコバッグにも高級ブランドのハンドバッグにも同率の消費税がかかります。 税の公平性についてよく言われることは、サラリーマンは完全に捕捉されているので不利だ。自営業が優遇されているという説です。サラリーマンが所得を捕捉されていることは事実として認めましょう。しかし、これは税逃れを基準とした場合です。 消費税は弱小業者にしわ寄せされることが多い上、小さな小売店では消費者へ転嫁しにくいのです。その上利益の有無に拘わらず課税され、顧客から預かっているとの建前上納付に対する精神的な圧力も強くなります。ここ20年来廃業が増え、シャッター通りが目につきます。古い物が消え新しい物が出来るという新陳代謝ではなく、古い物が消えるだけです。優遇されているはずの自営業者がどうして廃業するのでしょう。自営業者を非難する高級取りのサラリーマン諸氏やマスコミ・評論家たちこそ、低所得や身分不安定な派遣労働者に羨望されていることに思いは廻らないのでしょうか。 年間売り上げが1000万円以下の事業者は非課税となり、5000万円以下の場合は簡易課税が認められております。これは業者にとって有利であります。消費税をちゃんと付加していれば益税がでてきます。消費者としては不愉快な制度です。しかし事業者側は、デフレと利潤削減で消費税どころではないとの思いをいつも持っています。益税などいらないから、税その物を止めてほしいのが実情ではないでしょうか。この立場からすると、課税されないどころか還付される輸出業者こそ益税の極みに見えるのです。 増税が不況を増進することは論を待ちません。税金は富の再配分には貢献しますし、公共事業も必要ですから税そのものは必要です。民主党は税を再配分することで景気が回復すると言いましたが、集税にも分配にも費用がかかりますので、景気に貢献するはずの資金は目減りします。消費税の増税が不況や税収減につながらないと政府は思いたいようです。日本の税収は平成2年の60.1兆円を頂点に減り続け、平成9年53.9兆円と持ち直しましたが、この年消費税率5%となって再び減り続け。21年には36.7兆円になりました。22年は少し戻して41.4兆円だそうです。この間消費税はほぼ一定の約10兆円をキープしておりますので、この税が財務省に好かれるわけです。税収が20兆円も下落してしまったのは、主に所得税と法人税が減ったからでしょう。不況・デフレ・高失業率・賃金低下、上げればキリがありません。消費税増税が原因のすべてではなく、この間に公共事業費が15兆円から7兆円まで55%も切り捨てられてしまったのですから、不況になるわけです。公共事業費は資料によって42兆円から22兆円ともいわれます。いずれも半減しております。 派遣社員の問題が一時盛んでした。消費税は派遣社員増加の原因にもなります。 人件費は消費税の対象にはなりませんので控除されません。しかし、派遣社員に関しては派遣元に消費税を付加して支払わなければなりません。どのような金額が支払われようと、建前上の消費税は付加されていますので、控除の対象になります。企業にとっては正社員より派遣社員の方が消費税を控除できるから好ましいのです。 かくして派遣利用はますます進むでありましょう。消費税率を上げると消費税収は税率に比例するけれど、他の税収が落ち込むのは確実です。 税の公平からすると、源泉所得税をかけられない高齢者に対しても、消費税であればかかってしまいます。これは一見公平そうに見受けられます。当局からみれば公平・確実に取り立てる方法です。しかし、日本経済からみると、高齢者の消費税分は一旦小売店や流通業者の利益にして、それが雇用や設備投資に回った後に、所得税・法人税として回収した方が国民にとって利益でありましょう。経済を成長させるからです。 結論を言えば、この20年で税収が60兆円から40兆円と1/3も落ち込んでしまったことが一番の問題です。バブル時代まで戻ることはなくても、景気回復を図らないで消費税の増税だけ語るということは、もう経済再生を諦めてしまったのでしょうか。 国民が選挙で要求したことは「景気回復」でした。当時民主党は「政権交代こそが景気回復だ」と言っていたはずです。 リユース業者にとっての消費税 中古業者の粗利益率が高いのは周知の事実です。粗利益率60~80%は普通でしょう。 これは、在庫経費や人経費の占める率が高いからです。 粗利益率が高いことは商売としてはよいことですが、消費税を考えると要注意です。 例えば売上額100%に対して、仕入原価30%、販売・一般管理費30%と仮定しますと、残りの40%に消費税の直接納税額がかかってきます。仕入原価と管理費60%に対する消費税はすでに支払い済みですが、のこり40%はまだ消費者から預かっている状態なのです。消費税の簡易課税範囲内であればよいのですが、これを超えてしまうと不利益が起きます。年商5000万円までは簡易課税が認められております。この場合、卸売業は10%、小売業は20%、製造業は30%が粗利益率と認められます。オフィス家具は対象が企業ですので卸売り業者とみなされ、10%の粗利益率が適用されます。すなわち正規の消費税納税額は、売上の40%の内の5%(100*0.4*0.05=2%)なのに、簡易課税では、売上の10%の内の5%(100*0.1*0.05=0.5%)の納税で済みます。これが益税です。同じ5000万円の年商に対して、簡易課税では5000*0.1*0.05=25万円の納税で済みます。しかし正規の課税では、5000*0.4*0.05=100万円になってしまいます。 売上が増えて良かったと思った矢先に、消費税がドカンと来ます。簡易課税業者は前年又は前々年の売り上げが5000万円以下で、簡易課税者の届け出が必要です。 すなわち、2年連続で5000万円を超えると簡易課税業者ではいられなくなりますから、消費税が益税から重税に変わるのです。勿論、粗利益がもっと高かったり、管理費が低かったりした場合は消費税が増えます。税率が10%になると倍になり、20%になると4倍になります。これは法人税ではありませんので、利益にかかわりなく売上にかかってきます。年に2回納税のための資金繰りに苦しむことになります。 中古業は利幅があるのでついつい値引きしてしまいますが、5000万円に近付いたら気を付けなければなりません。 by saifukyo | 2011-07-21 11:53
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